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このブログは『TW2 Silver rain』の神谷崎刹那、及びその背後が書いている日記です。
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プロフィール
HN:
神谷崎刹那
年齢:
31
性別:
女性
誕生日:
1993/02/10
職業:
中学生
趣味:
読書、家事全般
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赤い。僕は切にそう思った。確かに壁が、床が、窓が、天井が、僕が、少女が、空が、月が、僕の目の前全てが赤かった。目に映る赤だけで構成された朱や紅や赤や橙等の赤だけの“単色世界(グラデーション)”。今なら走馬灯というのが『過去を頼りに現状を打破する行為』ではなく『ただ過去を写すだけの意味無き思索』だという事が分かるだろう。僕は赤に耐え切れなくなって目を瞑る。なぜなら、いつの間にかそこにあった胸の痛みが何もかもを忘れさせてくれたから。

 ほんの数時間前まで、僕は普通の青年実業家だった。現代社会において風雲児と呼ばれ、また、ある面では勝利者とも呼ばれていた。妻子はいないが、それに近しい人もいて日々を暮らしているはずだった。そう、『はずだった』のだ。転機と言うのは本当にささやかな事で、クリスマスを兼ねた会社の忘年会に出席した事。あるいはそこで飲みすぎた事だろうか。そんなことは、結局今となっては何もかもが全て些細な事、全てが走馬灯の様に流れていってしまった。僕が語るのはその時の事だ。十字架と赤い月と黒衣に彩られた凄惨な一夜。200X年12月25日、僕は赤坂にある一等級のホテルのレストランにいた。数多くの著名人やタレントが訪れる豪奢な内装、それは居心地が良いものではあったのだが、些か窮屈でもあった。だからなのか、僕は自宅付近に帰るなり自然と気軽に飲めそうな居酒屋を探してふらふらと町へと繰り出していった。
 案の定、良く行く居酒屋で日本酒の熱燗をちびちびと飲みながらかまぼこにわさびを塗りたくって頬張っていた僕は、日頃のストレスが溜まっていたのだろうか酒の加減を間違えたのだった。いつもなら酔わないはずなのに…そうは思ったものの進みが速くてね。いつの間にか止められる位までへべれけになっていたらしい。そして、そこから僕は外に出てからの記憶が無い…次に思い出されるのは真っ赤な光景だったからね。だから、記憶に無い部分…“残滓記憶(フラグメント)”…が知りたかった。ただ、一つ言える事は、僕には語れない、それだけだ。

-残滓記憶・フラグメント-

200X年12月25日

 日本某所の廃工場、手がかりは東京からは遠くも近くも無い距離にあって、かなり前に打ち捨てられている事だけ。かつては軍事工場として国家の重要機密の一つに入っていたはずの工場内には、たくさんの怨念などが篭っておりより一層の禍々しさをかもし出している。そんないわく付きの場所である事と国家の閉塞的な情報公開による不明瞭な所在確認のお陰で人が立ち入った気配はほとんど無い。そんな場所に私はいた。肌に感じる寒さがいっそう厳しくなったのを感じるともう夕方なのであろうか。どこと無く指先が上手く動かない事にもどかしさを感じながら、私は瓦礫や廃材を動かしていた。もうかれこれ二時間は同じ作業を繰り返していると思う。家に置いて来た妹の真奈が心配だからと早く始めたのにもかかわらず、一向に廃材は減ってくれない。

―――もどかしい…実にもどかしい

 思わずため息を吐く。私から離れ白く靄立ち、空気に紛れ込んでいく。しかし、私の感情は簡単には解けてくれそうに無かった。原因も理由も分かっている。これは一つのお仕事なのだから。今宵は満月、楽しい夜になりそうだ。

「ねぇ、そこのお兄さん……私についてきてくれない??」
「んぅぅ…なんだ~い、この僕になんか用なのか~い??」
「えぇ、あなたに用があってね……付き合って欲しいの」
「あはは~、君の様な子供じゃ抱いてあげられないぞ??キスもほっぺにだ~」
「…………えぇ、来てくださらない??」
「いくいく~、いっくぞぉ~」
(……完璧に酔っ払いのおじさんと一緒か…)

 一ヶ月前から調べ上げて作った情報の網。かなり精密な情報で作られた網は私の獲物をやすやすと捕らえてくれた。それも思考が泥酔によって麻痺しているというお土産付きで。私はその手を引いて路地を行く。内心ではこの場で…という衝動もあったが、こればかりはこらえなければならなかった。空腹がスパイスになるように、押さえつければ欲求は大きくなってその分快楽も大きいのだろう。私の顔は人知れず歪む。喜悦と狂気の入り混じった滅びの天使の様に美しく壊れた笑みが浮かぶ様に。段々と急く心を押し付けながら向かう先は廃工場。あそこなら人知れずやれるから。それが非常に楽しみだった。

 かつんかつんと静寂に満ちた廃工場に靴音が混じる。そしてその後ろではぐにゃぐにゃとした男の声があった。何だか訳の分かんない事や意味の無い事、言うのも憚られる様な下品な事を言って一人で笑っていた気がする。そんな様子を傍目に見ながら、もう良いだろう…もう一線を越えても良いだろうと思った。手を背中に回して振り向く。急に止まったが故に私は必然的に押し倒される。またもなにやら分からない事を良いながら手を伸ばす青年。さて、やろう……………もう我慢はいらない、突き進んでやる。そう決心をして、



――――背中のナイフで思い切り腕を切りつけた。



 一瞬のタイムラグ、その後に男の悲鳴が廃工場内にとどろく。悲鳴、それに告ぐ赤い色彩と鉄錆の香りとともに覚醒する周囲の怨念、怨霊、自縛霊の群集。自分一人に対してのその群集といったら百万鬼夜行とでも言った所だろう。今の私の周りには魑魅魍魎しかいない。言い換えれば、私の周りに人間は一人もいないのだ。

「ふふっ、何でこんな事するんだとでも思ってるの??一つ一つ答えてあげるわ♪まず、あなたはもう一回死んでるの。」
「…………あっはっはっはっ、君は何を言っているんだよ…この僕がもう死んでる??電波じゃないの、あんた…」
「そりゃぁ、信じられないでしょうねぇ…今日もお酒を飲んで何をやってって日常どおり過ごしてきたんでしょう??ねぇ、急性アルコール中毒って知ってる??何であなたは記憶がなくなるぐらいお酒を飲んで全く平気なのかしら??ふふっ、あなたの身辺は調べさせてもらったけど、あなたやっぱり死んでるわ♪」
「…………だったら何だと言うんだ??僕は今こうして動いていられる、なら放っておい「だめね…」」
「あなたみたいなのを『リビングデット』動く死体って言うの。そのうち理性がなくなってきて周囲を無差別に襲うわ…別に他人が襲われても私には関係ないけど……妹が襲われるの嫌だからね…」
「………なら、君の妹は襲わないって約束したら良いのか??」
「あら……自分が死んでるって自覚できたの??へぇ、頭は良いのね………。約束??そうねぇ……………だめよ」
「なっ、何故だ…君は今他は関係ないと…」
「お前を殺したいから。……生きてないから殺すとは言わないわね、ぶち壊したいからよ♪良いじゃない、純粋無垢な少女に殺されるって言うの…」
「…………お前が僕を??少女が僕みたいな青年相手に力で敵う訳無いだろ??あっはっはっ…ここなら人もいないしね…何してあげようか??」
「そうね………ここなら人がいないもの…………いくら残虐に壊しても悲鳴は届かない。いくらあたりに損害を出そうとも誰にもばれない……あはっ、あはははははははっ♪」
「………これは正当防衛だ…正当防衛だからこの子を……」
「遠慮はいらないわ……どうせあなたも周りの魑魅魍魎も今日ここで山積みに、死体に返るんだから♪」
「…………じゃぁ、僕の玩具になってもらおうかな…」
「低俗な…まぁ、負けは死だから遺体はどうにでもすれば??そんなことはガンジスの砂を全部数えて分母にして上に1を乗っけてもらえるわ♪さようなら♪」

 会話の最後に一頻りの微笑を添える。自分ができうる最高の清澄な狂気を宿す悪魔の微笑を。そして、周囲の多々ある影と、目の前の一つの影が一斉に私に牙をむいた。

(ふふっ、楽しいわ……実に楽しい。そう、その刃が、牙が、腕が、足が……さぁ、殺してやるわ…あははっ…♪)

 迫り来る妖獣の首筋をナイフで薙ぐ。バランスを崩した動く死体の頭蓋を踏み抜く。後ろに忍び寄ったリリスの胸に思い切りナイフを突き立てて捻りあげる。その度に当たりに飛び散る鮮血が私を赤く、より紅く染めてくれる。今この一瞬においては日常など存在しない。返り血の温度が、錆びた鉄の様な生臭い匂いが、そしてその紅い色彩が全て何にも増して心地良い物だから。切り裂き、払い、なぎ倒し、潰し、刺し、抉り取る。その度にナイフが、服が、靴が、指先が、足先が、顔が、黒髪が鮮血を浴びて禍々しく輝いていく。今は無い天井から差し込む月光ですら、今この瞬間は紅かった。

「どうしたの??私を殺すんじゃないの??ねぇ、ねぇ……弱いよ…弱すぎるよ…あははっ、あはははははははっ♪その程度で私を殺す??出来る訳ないじゃない♪ほら、お礼に私が殺して殺して殺しつくしてあげるよ…きゃははっ、ふふっ、あはははははは、ははははははははははははっ♪」

 日常生活では味わえない躍動やスリル。私の狂気を満たす全てがそろっていた。だが楽しい時間は長くは続かないもので。

「…………最後はあなたね??うふふっ、楽しかったぁ♪あなたはどんな声で鳴いてくれるのかなぁ??どんな風に壊れてくれるのかなぁ??さぁ、決めさせてあげるよ…」
「ひっ……くっ、くそぉっ!!」
「目を瞑ったら一思いに楽に逝かせてあげる。敗北を認める事になるけどね…抵抗するなら嬲って嬲って壊れるまで嬲ってから凄惨な死体にしてあげる…どっちが良い??」

 言葉の途中に入る殴りも蹴りも私には当たらない。所詮窮鼠猫をかむといえど真の窮鼠など余裕を持った猫の前には無力、柳に風なのだ。それでも抵抗をやめない無様な鼠を見ながら心は常に侮蔑と嘲笑を浮かべていた。

「ふぅん……で、当たらないわね……さぁ、痛覚を持った事を後悔するわ…目を持った事を、耳を持った事を、口を持った事を、鼻を持った事を、手を、足を、体を、この世に生を受けた事を後悔させてあげるわ♪」
「………………うわぁぁぁっぁぁああぁぁぁっ…!!」
「ふふっ、目を瞑りなさい……」
「ぁ……ぁぁ……」
「おやすみなさい、永遠に♪」

 屍の山の天辺で最後に大きな紅い血の花が咲いた。貫いたのはナイフではなく瓦礫で作った巨大な十字架。無骨な鉄骨やコンクリート、ガラス片に彩られたそれは、屍の山の墓標とすべくかの様にひそやかに突き刺さり倒れる事は無かった。

「疲れたなぁ……あははっ、誰かも言った様に…こんなにも月が紅いから…とでも残しとこうかしらね……」

 根元に座り、月を眺める。ほんの少しだけ傾き始めたより紅くより禍々しい満月が、まるで私を祝福するかの様に煌々と輝いていた。もうすぐ夜は明けて私の日常が始まるだろう。赤に紛れる宵闇の黒を引き連れて、私の姿は野山の獣道へと掻き消えていった。

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